
身体拘束を考える:尊厳と安全のバランス
身体拘束とは、高齢者や障がいのある方の自由な行動を制限することを指します。具体的には、ベッドに体を縛り付けたり、車いすに固定したり、部屋に閉じ込めたりするといった行為が挙げられます。これらの行為は、本人の意思に反して行われるものであり、たとえ一時的なものであっても身体拘束に該当します。
身体拘束は、認知症の方が徘徊したり転倒したりするのを防ぐため、あるいは医療行為の妨げにならないようにするために実施されることが多いです。例えば、点滴のチューブを抜かないように手足をベッドに縛ったり、検査中に急に立ち上がって転倒しないように体を固定したりする場合が考えられます。また、他者への危害を防ぐという目的で行われることもあります。例えば、興奮状態にある方が他の人に危害を加えないように、一時的に身体を抑制する場合などです。
しかし、身体拘束は身体的、精神的な負担を伴います。長時間の拘束は、床ずれや筋肉の萎縮、関節の拘縮などを引き起こす可能性があります。また、閉じ込められたり、自由に動けなかったりすることで、精神的な苦痛や不安感、抑うつ状態に陥ることもあります。さらに、拘束によって自尊心が傷つけられ、生活の質が低下する恐れもあります。
そのため、身体拘束は最終手段として考えられるべきです。身体拘束を行う前に、まずは拘束以外の方法を検討することが重要です。例えば、徘徊する方の不安を取り除く声かけや、転倒を予防するための環境整備、一人ひとりの状態に合わせたケアの提供などが挙げられます。どうしても身体拘束が必要な場合は、その必要性や方法、期間について本人や家族に丁寧に説明し、同意を得る必要があります。また、拘束による身体への影響や精神的な変化を注意深く観察し、定期的に拘束の必要性を再評価することも大切です。常に利用者の尊厳を念頭に置き、より良いケアを目指していく必要があります。