認知症ケア

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介護職

人間らしさを取り戻すケア:ユマニチュード

ユマニチュードは、フランスのイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏が創始した、認知症の方への新しいケアの方法です。この方法は、世界中で関心を集めており、その効果は容易にそして短時間で現れると言われています。ユマニチュードの大切な点は、認知症の方を病気として見るのではなく、一人の人間として敬い、心を通わせることを大切にしている点です。この人間中心の考え方は、世をする側とされる側の両方に、穏やかで良い関係を作る助けとなります。 従来の世話では、認知症の症状ばかりに目が行きがちでした。しかし、ユマニチュードは、その人自身の人間性、気持ち、そして人生で経験してきたことを大切にします。それは、まるで長年の友達と語り合うように、相手のこれまでの人生に寄り添い、共感し、理解しようとする態度です。このような温かいまなざしを通して、認知症の方々は、自分が大切にされていると感じ、安心感と自信を取り戻すことができるのです。 ユマニチュードは、「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を基本としています。見る際には、相手の目を見て、1メートル程の距離を保ち、正面から優しく声をかけます。触れる際には、手のひら全体を使って包み込むように優しくゆっくりと触れます。これらの具体的な方法を通して、認知症の方の不安や混乱を和らげ、穏やかな時間を過ごすことができます。 ユマニチュードは、単なる技術の集まりではなく、世話をする人自身の心の持ちよう、相手への接し方、そして伝えあい方を変える考え方とも言えます。それは、世話をする場所に、人間らしさを取り戻すための、そして、世話をする人とされる人の間に、本当の信頼関係を作るための、画期的な方法なのです。
その他

ピアリスニング:共に耳を傾け、共に理解を深める

仲間同士でじっくりと耳を傾け合う「仲間聞き」は、複数の人が集まって、共に話を聞き、理解を深めていく方法です。一方的に話を聞くだけでなく、聴いた内容について互いに意見や感想を伝え合い、対話を通して理解を深めていくところに特徴があります。 例えば、ある人が体験した出来事について話をしたとします。仲間聞きでは、話し手は自分の気持ちを整理しながら話すことができ、聞き手は話し手の言葉に耳を傾け、共感しながら理解しようと努めます。その後、聞き手は自分の感じたことや考えたことを話し手に伝えます。この時、大切なのは、話し手の言葉に共感的に耳を傾け、話し手の気持ちを理解しようと努めることです。決して一方的に意見を押し付けたり、批判したりする場ではありません。 仲間聞きは、学校での授業や会社の研修、地域活動など、様々な場面で活用できます。例えば、授業で新しい内容を学んだ後、生徒同士で仲間聞きを行うことで、互いの理解を深め、新たな視点を得ることができます。また、職場で起きた問題について仲間聞きを行うことで、問題の根本原因を探り、解決策を見つける糸口になることもあります。地域活動においては、住民同士が地域課題について仲間聞きをすることで、共通の理解を深め、協力して課題解決に取り組むことができます。 仲間聞きは、単に情報を得るだけでなく、他者の気持ちや考え方を理解し、共感する力を育む上でも効果的です。また、自分の考えを整理し、分かりやすく伝える能力を身につけることにも繋がります。仲間聞きは、互いに学び合い、共に成長していくための協働的な学習方法と言えるでしょう。
通所による介護

回想法:過去を語り、心を豊かに

回想法とは、昔の写真やよく聞いていた音楽、使い慣れた道具などを用いて、過去の出来事や思い出を語り合う、心の治療法の一つです。ただ昔の話を楽しむだけでなく、過去の経験をじっくりと思い出し、改めてその時の気持ちや考えを整理することで、心の安定を取り戻したり、もの忘れを防いだり、自分自身を大切に思えるようになったりする効果が期待できます。 この方法は、お年寄りの方だけでなく、様々な年代の方に活用されています。例えば、もの忘れが気になる方の予防や改善、気分が落ち込んでいる方の心のケア、一人暮らしで寂しさを感じている方の心の支えなど、幅広い効果が報告されています。 具体的には、グループで行う場合と、個人で行う場合があります。グループで行う場合は、数名で集まり、懐かしい品々をきっかけに自由に話し合います。進行役が話を促したり、参加者同士が共感し合ったりすることで、心の交流が深まり、孤独感が軽減されます。また、昔の出来事を思い出すことで、脳が刺激され、記憶力や思考力の維持・向上に繋がります。 個人で行う場合は、落ち着いた場所で、アルバムや日記を見ながら、過去の出来事をゆっくりと思い出します。その時々の感情や周りの人との関わりを振り返ることで、自分自身の成長や変化に気付いたり、人生の歩みを再確認したりすることができます。 回想法は、これまでの人生を振り返り、意味を見出すことで、残りの人生をより前向きに生きていくためのヒントを与えてくれます。過去の経験を宝物として捉え直し、今の自分を受け入れることで、自己肯定感が高まり、穏やかな気持ちで日々を過ごせるようになるでしょう。
介護職

認知症ケアにおけるバリデーションの理解

『バリデーション』とは、認知症を抱える方の気持ちや考え方、行動を頭ごなしに否定するのではなく、まずは受け入れて寄り添うコミュニケーションの方法です。この考え方は、1963年にアメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・ファイルさんによって提唱されました。 認知症によって、混乱したり不安になったり、葛藤を抱えたりする高齢者にとって、周りの人の理解と共感は、心の落ち着きと安心感を得る上でとても大切です。バリデーションは、まさにこの共感に基づいた介護の方法であり、高齢者の尊厳を守りながら、より良い暮らしを続けていくことを目指します。 これまでの介護では、認知症高齢者の発言や行動を正したり、現実を無理に教えたりすることがありました。しかし、バリデーションでは、そのような対応はせず、高齢者の心の中にある気持ちに注目します。これは、認知症高齢者の見ている世界を理解し、大切にしようとする姿勢を示すものであり、高齢者との信頼関係を築くことに繋がります。 具体的には、高齢者の言葉にじっくり耳を傾け、その言葉の裏にある気持ちを理解しようと努めます。たとえ、現実とは異なることを話していたとしても、すぐに否定するのではなく、「そうだったのですね」「つらい思いをされましたね」などと、共感の言葉を伝えることが重要です。また、高齢者の表情や仕草にも注意を払い、言葉にならない気持ちを読み取ろうとすることも大切です。 バリデーションは、単なる技法ではなく、高齢者に対する敬意と愛情に基づいた接し方です。この方法を実践することで、高齢者の不安や混乱を軽減し、穏やかな気持ちで過ごせるよう支援することができます。そして、介護する側も、高齢者の心の奥底にある思いに触れることで、より深い理解と共感を得ることができ、介護者と高齢者双方にとって、より良い関係を築くことができるでしょう。