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盗られ妄想:認知症の理解
盗られ妄想とは、実際には何も盗まれていないにも関わらず、自分の物が盗まれたと強く思い込んでしまうことです。これは、認知症の症状の一つとしてよく見られます。本人は疑いなく盗まれたと確信しているため、周りの人は対応に困ってしまうことが少なくありません。
盗られたと感じる物は、お金や宝石などの高価なものに限らず、普段よく使う物や食べ物など、実に様々です。また、「○○さんが盗んだ」などと、特定の人物を犯人に仕立て上げることもあります。家族や介護者が疑われることも珍しくありません。疑われた人は大変傷つきますが、本人は事実とそうでないことの区別がつかなくなっているため、責めても仕方がありません。
盗られ妄想を抱く人は、強い不安や恐怖を感じています。物がなくなったという喪失感だけでなく、誰かに盗まれたという不信感も抱えているため、非常に辛い気持ちになっています。さらに、信じてもらえないもどかしさも加わり、場合によっては攻撃的な態度を取ることもあります。落ち着いて話を聞いてくれる相手がいれば少しは安心できるはずです。
盗られ妄想への対応で最も大切なことは、頭ごなしに否定したり、現実を突きつけたりしないことです。例えば、「何も盗まれていませんよ」と正論を言っても、本人は納得しません。かえって興奮してしまう可能性もあります。まずは落ち着いて「大切な物がなくなって不安なんですね」「心配ですね」など、相手の気持ちに寄り添う言葉をかけることが大切です。そして、一緒に探してあげるのも良いでしょう。探すふりをしても構いません。
どうしても解決しない場合は、他の話題に切り替える、気分転換を促すなども有効です。相手の好きな音楽をかけたり、一緒に散歩に出かけたりするのも良いでしょう。気持ちが落ち着けば、盗られたという思い込みも薄れていくことがあります。根気強く、優しく接することが重要です。