心理学

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介護と介助における自己実現

人は誰でも、自分らしく生きていたいと願うものです。これは、加齢や病気、障がいがあっても変わることはありません。介護や介助が必要な状態になったとしても、その人らしい生き方、暮らし方を尊重し、実現できるよう支援していくことが大切です。この、自分らしく生き、自らの可能性を最大限に発揮することを目指す考え方が「自己実現」です。 日常生活における食事、入浴、排泄といった基本的な動作の支援は、利用者の方々の身体的な健康を維持するために欠かせません。しかし、健康な状態を保つだけでは、真の意味での幸福とは言えません。身体的なケアだけでなく、心の中にある思いや願いにも耳を傾け、その人が何を求めているのか、何を大切にしているのかを理解することが重要です。 例えば、絵を描くことが好きだった人が、身体機能の低下によって自由に筆を動かせなくなったとします。このような場合、すぐに諦めてしまうのではなく、どのような支援があれば再び絵を描く喜びを感じてもらえるのかを一緒に考えていく必要があります。口で指示を出しながら他の人に描いてもらう、あるいは、指先で動かせる道具を使って描くなど、様々な方法が考えられます。大切なのは、その人が「やりたい」という気持ちを尊重し、実現に向けて共に努力していく姿勢です。 介護や介助の現場では、どうしても「お世話をする」という視点に偏りがちです。しかし、利用者の方々は、ただ「お世話される」だけの存在ではありません。それぞれの人生経験を持ち、豊かな感性や才能を持った一個人です。「お世話をする」のではなく、「その人らしい生き方を共に創り上げていく」という視点を持つことで、利用者の方々の自己実現を支援し、より質の高いケアを提供することに繋がります。それは、同時に、介護や介助を行う私たち自身の喜びややりがいにも繋がっていくのではないでしょうか。
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エゴグラムで自分を知る

心の状態を図に表す方法の一つに、エゴグラムというものがあります。これは、アメリカの精神科医であるエリック・バーン氏が考えた交流分析という考え方を元にした、自分の性格や行動のくせを調べるためのものです。交流分析では、人は誰でも「親」「大人」「子供」という三つの心の状態を持っていると考えられています。この三つの状態のバランスや強さをグラフにして目に見えるようにしたものがエゴグラムです。 エゴグラムは、「批判的な親」「養育的な親」「大人」「自由な子供」「順応した子供」という五つの物差しでできています。それぞれの状態が、どれくらい自分の中にあるかを測ることで、自分の性格や人とのかかわり方などが分かります。例えば、「批判的な親」の値が高い人は、他の人を悪く言ったり、決まりや規則に厳しいところがあります。反対に、「養育的な親」が高い人は、親切で面倒見がよく、他の人を助けることに喜びを感じます。「大人」は、物事を筋道立てて考え、冷静に判断します。「自由な子供」は、色々なことに興味があり、新しいことを考えるのが好きで、思ったことをそのまま表現します。一方で、「順応した子供」は、周りの人に合わせようとしたり、決まりを守ろうとします。 これらの五つの物差しのバランスを見ることで、自分の得意なことや苦手なこと、人とのかかわり方での課題などが分かります。例えば、「自由な子供」が高い人は、新しい発想で仕事ができる一方、衝動的な行動で失敗することもあります。また、「順応した子供」が高い人は、協調性が高い反面、自分の意見を言えずにストレスをためてしまうこともあります。このように、エゴグラムは自分の性格を理解し、より良い人間関係を築くためのヒントを与えてくれます。自分自身を深く知りたい、人間関係を円滑にしたいと考えている人は、一度試してみる価値があるでしょう。
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介護と介助における葛藤:アンビバレンス

人は誰しも、大切な人の力になりたいと願うものです。特に、家族や親しい人が、病気や加齢によって不自由を抱えるようになると、その思いはより一層強くなります。そして、献身的に支えたい、寄り添いたいという愛情から、介護や介助を始める人は少なくありません。 しかし、介護や介助の現場は、美しい愛情だけでは乗り越えられない現実があります。肉体的にも精神的にも、想像以上の負担がかかることも少なくありません。自分の時間や自由が制限され、やりたいことを諦めなければならない場面にも直面します。疲労やストレスが蓄積し、ついには、大切な人に苛立ちを感じてしまうこともあるでしょう。世話をする中で、愛情を感じながらも、同時に不満や負担感を持つ。このような相反する感情に戸惑い、自分を責めてしまう人もいるかもしれません。 このような状態は、「アンビバレンス」と呼ばれ、介護や介助をする多くの人が経験するものです。愛情と負担感、献身と不満。相反する感情が心の中でせめぎ合うことは、決して特別なことでも、ましてや悪いことでもありません。むしろ、人間として自然な反応と言えるでしょう。例えば、長年連れ添った配偶者を介護する中で、愛情と感謝を持ちながらも、介護による負担から来る疲労や、自分の時間が持てないことへの不満を抱えることは、よくあることです。あるいは、成長した子供が、親の介護をする中で、親孝行したい気持ちと、自分の仕事や家庭生活との両立の難しさに葛藤することもあるでしょう。 大切なのは、こうした相反する感情を持つ自分を否定しないことです。まずは、自分がアンビバレンスを抱えていることを自覚することが大切です。そして、自分の感情にしっかりと向き合い、適切な方法で対処していくことが、より良い介護や介助につながります。誰かに相談したり、一時的に休息を取ったり、介護サービスを利用するなど、様々な方法があります。抱え込まずに、周りの人に助けを求めることも考えてみましょう。