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飲み込む力を支える:嚥下のメカニズム
私たちは日々、食べ物や飲み物を口から体内に取り入れています。この一見当たり前に思える動作は「飲み込む」あるいは専門的には「嚥下」と呼ばれ、実は非常に複雑で精巧な仕組みによって行われています。飲み込むということは、単に食べ物を胃に送るだけでなく、生命維持に欠かせない栄養や水分を摂取するために非常に重要な役割を果たしています。 この複雑な過程は、大きく分けて口腔期、咽頭期、食道期の三つの段階に分けることができます。まず、口腔期では、口に入れた食べ物を舌と歯を使って細かく砕き、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい形にします。この時、食べ物の形や大きさ、温度、舌の動きなど、多くの要素が関わってきます。次に咽頭期では、食塊が咽頭に送り込まれると、反射的に気道が閉じ、食道が開きます。この精緻な連動によって、食べ物が気管に入ってしまう、いわゆる「誤嚥」を防いでいます。 そして最後の食道期では、食道にある筋肉の収縮運動によって、食塊が胃へと運ばれていきます。これら一連の動作は、脳神経からの指令によって、複数の筋肉が協調して働くことで、スムーズに行われています。 私たちは普段、意識することなく、何百回も嚥下を繰り返していますが、加齢や病気などにより、この機能が衰えることがあります。これがいわゆる「嚥下障害」です。嚥下障害が起こると、食べ物が飲み込みにくくなったり、むせたり、誤嚥性肺炎の危険性が高まったりします。スムーズに飲み込むためには、日頃から口腔ケアをしっかり行い、よく噛んで食べること、姿勢に気を付けることなどが大切です。飲み込むという機能は、私たちの健康な生活を支える重要な機能の一つと言えるでしょう。