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失認:理解の壁を越えるために
失認とは、目や耳、鼻、舌、皮膚といった感覚器官に問題は無いのに、見ているものや聞いている音、触れているものなどが何なのか分からなくなってしまう状態です。例えば、目の前にある時計を見てそれが何なのか理解できなかったり、耳元で鳴っている電話の音を認識できなかったり、目の前にいる家族の顔を識別できなかったりすることがあります。
大切なのは、これは怠けている訳でも、わざと分からないふりをしている訳でもないということです。脳が受け取った感覚情報を正しく処理することができなくなっているために起こる症状なのです。
もう少し詳しく説明すると、視覚に異常がないにもかかわらず、見ているものが何なのか理解できない場合は視覚失認と呼ばれます。この場合、時計を見てもそれが何なのか分からなかったり、目の前の家族の顔を見ても誰なのか認識できなかったりします。しかし、時計に触れて針や文字盤を指で確認することで「これは時計だ」と理解できたり、家族の声を聞いてその声色や話し方から誰なのか判断できたりするケースもあります。
同様に、聴覚に異常がないにもかかわらず、聞いている音が何なのか理解できない場合は聴覚失認、触覚に異常がないにもかかわらず、触れているものが何なのか理解できない場合は触覚失認と呼ばれます。このように、感覚器そのものは正常に機能していても、脳で情報が正しく処理されないために、物事を認識することが困難になるのです。
失認は、高次脳機能障害と呼ばれる症状の一つです。高次脳機能障害には、記憶障害や注意障害、遂行機能障害など様々な種類がありますが、失認もその一つであり、物事を認識し、理解する能力に影響を与えます。周囲の人は、このことを理解し、温かく接することが大切です。