語りを通して人生を豊かに:ナラティブアプローチ

語りを通して人生を豊かに:ナラティブアプローチ

介護を学びたい

先生、「ナラティブアプローチ」って介護や介助の現場でよく聞くんですけど、どういう意味ですか?

介護の研究家

そうだね。「ナラティブ」は「語り」、「アプローチ」は「近づく」という意味で、困りごとを抱えている人の「語り」に近づいていく支援方法のことだよ。その人がどんな経験をして、どんな風に感じているのかを丁寧に聞き取っていくことが大切なんだ。

介護を学びたい

話を聞くだけですか?何か特別なことをするんですか?

介護の研究家

ただ聞くだけじゃないよ。その人の話の中から、うまくいっていることや、強みとなる部分を見つけて、それを一緒に育てていくんだ。そうすることで、自信を取り戻したり、問題を解決する力につながるんだよ。

ナラティブアプローチとは。

『語りによる寄り添い』という考え方について説明します。これは、人と人を支える仕事をしている心理の専門家が生み出した支援の方法です。『語りによる寄り添い』とは、その名の通り『語り』と『近づく』という意味で、介護の現場や障害のある方だけでなく、問題行動のある子どもや若者にも広く使われています。病気の治療にも似ていますが、支援する側とされる側が一緒に、筋の通った物語を作り上げていくことで、社会生活を送れるようにしていく方法です。

語りへの着目

語りへの着目

人は誰でも、人生を歩む中で様々な出来事を経験します。嬉しい出来事、悲しい出来事、楽しい出来事、辛い出来事。私たちは日々、このような出来事を経験し、それらを心の中で整理し、意味づけしながら生きています。この、出来事を整理し意味づけるという一連の営みが「語り」と呼ばれるものです。そして、この「語り」に光を当てた支援方法こそが、革新的な手法として注目されている「語りへの着目」です。

従来の支援では、問題となっている行動や困難な状況ばかりに目が向けられがちでした。しかし、「語りへの着目」では、個人が抱える問題だけに焦点を当てるのではなく、その人が歩んできた人生全体、つまり「語り」に着目します。人は誰でも、自分自身の人生を語る力を持っており、その語りの中には、困難を乗り越えてきた経験や、独自の強み、そして未来への希望が隠されています。

「語りへの着目」では、専門家は、相手の話にじっくりと耳を傾け、その人が持つ豊かな物語を丁寧に引き出していきます。過去の出来事を振り返り、その時の気持ちや考えを改めて言葉にすることで、自分自身をより深く理解することが可能になります。また、これまで意識していなかった自分の強みや可能性に気づくことで、自信を取り戻し、未来への展望を切り開く力となるのです。

この「語りへの着目」は、介護の現場はもちろんのこと、教育や子育て、心理的なケアなど、様々な場面で応用できるという点も大きな特徴です。子どもとのコミュニケーションにおいても、子どもの言葉に耳を傾け、その「語り」を尊重することで、信頼関係を築き、健やかな成長を促すことができます。周りの人々が、その人の「語り」に耳を傾け、共感し、寄り添うことが、その人にとってどれほど大きな支えとなることでしょう。

「語りへの着目」は、人と人が心で繋がり合うための、大切な方法と言えるでしょう。

語りへの着目 詳細
定義 人生における出来事を整理し、意味づけする「語り」に光を当てた支援方法
従来の支援との違い 問題行動や困難な状況ではなく、人生全体(語り)に着目
目的
  • 困難を乗り越えてきた経験、独自の強み、未来への希望の発見
  • 自己理解の深化
  • 自信の回復
  • 未来への展望
専門家の役割 相手にじっくりと耳を傾け、豊かな物語を丁寧に引き出す
応用分野 介護、教育、子育て、心理的なケアなど
効果 人と人が心で繋がり合うための大切な方法

問題と人の分離

問題と人の分離

『問題と人の分離』とは、困りごとを抱える本人と、困りごとそのものを切り離して考える考え方のことです。これは、物語療法と呼ばれる支援方法の中でも、特に大切な考え方の一つです。これまでの支援では、困りごとを抱えている人を『困った人』と見てしまいがちでした。例えば、仕事でうまくいかない人を『仕事のできない人』と決めつけてしまうようなことです。しかし、物語療法では、困りごとはその人自身ではなく、その人に影響を与えているものと考えます。つまり、『困った人』ではなく、『困りごとと闘っている人』と見るのです。

たとえば、子供が学校に行きたがらないとします。従来の考え方では、その子を『学校に行きたがらない子』と捉え、その子自身に問題があると考えるかもしれません。しかし、物語療法では、『学校に行きたくない』という気持ちと子供自身を切り離して考えます。もしかしたら、学校で友達との関係に悩んでいるのかもしれませんし、授業についていけないと感じているのかもしれません。あるいは、家庭での出来事が影響している可能性もあります。

このように、困りごとと子供自身を分けて考えることで、その子の持つ力や可能性に目を向けることができます。『学校に行きたくない』という気持ちの裏にある、本当の困りごとを理解し、その子に合った解決策を見つけることができるのです。

問題と人を分離する大きな利点は、困りごとに押しつぶされそうになっている人に、自分自身を取り戻す力を与えることです。人は誰でも、良いところもあれば、苦手なところもあります。困りごとばかりに目を向けると、自分の良いところが見えなくなり、自信を失ってしまいます。しかし、困りごとと自分自身を分けて考えることで、自分の strengths を再発見し、『自分はこんなこともできるんだ』と勇気を持つことができるのです。

これは、特に苦しい状況にある人にとって、大きな希望となります。自分自身を責めることなく、前向きに困りごとと向き合うことができるからです。そして、周りの人も、その人の strengths を認め、支えることができるようになります。このように、問題と人の分離は、人を勇気づけ、より良い未来へと導く力強い方法なのです。

従来の考え方 問題と人の分離(物語療法)
困りごとを抱えている人 = 困った人
(例:仕事でうまくいかない人 = 仕事のできない人)
困りごとはその人自身ではなく、その人に影響を与えているもの
(例:困った人ではなく、困りごとと闘っている人)
子供自身に問題があると考える
(例:学校に行きたがらない子 = 学校に行きたくない問題のある子)
困りごと(例:学校に行きたくないという気持ち)と子供自身を分離して考える
(例:学校での友達関係、授業についていけない、家庭での出来事など、何が影響しているかを考える)
困りごとばかりに目を向け、自分の良いところが見えなくなり、自信を失う 困りごとと自分自身を分けて考えることで、自分の strengths を再発見し、勇気を持つことができる
困りごとに押しつぶされそうになっている人に、自分自身を取り戻す力を与える
自分自身を責めることなく、前向きに困りごとと向き合うことができるようになる
周りの人も、その人の strengths を認め、支えることができるようになる

優位な物語の発見

優位な物語の発見

人は誰でも、自分自身や世界について色々な考え方や見方を持ち、それらを物語のように心の中に描いています。まるで自分の人生を物語のように捉え、それを頭の中で何度も語り直しているようなものです。こうした物語の中には、特に強い影響力を持つものがあり、これを「優位な物語」と呼びます。優位な物語は、私たちの考え方や行動、そして感情に大きな影響を及ぼします。

例えば、「自分は価値のない人間だ」という優位な物語を心に持っている人は、自分に自信が持てず、新しいことに挑戦することをためらってしまうかもしれません。また、「世界は危険な場所だ」という優位な物語を持つ人は、他人との関わりを避け、常に不安を抱えて生活するかもしれません。このように、優位な物語は、私たちの人生に影を落とすこともあります。

「ナラティブアプローチ」と呼ばれる方法は、こうした優位な物語に気づくことから始めます。まるで探偵のように、自分自身の心の中を探り、どのような物語が隠れているのかを見つけ出すのです。そして、その物語をただ否定するのではなく、別の角度から見てみる、新しい解釈を加えてみるなど、様々な視点を取り入れることで、物語に新たな光を当てていきます。

例えば、過去のつらい経験を思い出して、「あの時、自分は何もできなかった」という物語に囚われているとします。ナラティブアプローチでは、その時の状況を改めて振り返り、「あの時、私は精一杯頑張っていた」「あの経験のおかげで、今の私がある」といった新たな意味を見出すことを促します。

このように、過去の経験を再解釈し、新たな物語を紡ぎ出すことで、人は未来への希望を取り戻すことができます。優位な物語に囚われず、自分自身の人生をより豊かで彩りあるものにするために、ナラティブアプローチは力強い味方となるでしょう。

概念 説明 影響/結果
優位な物語 個人が持つ強い影響力を持つ考え方や見方。人生を物語のように捉え、頭の中で何度も語り直す。 考え方、行動、感情に大きな影響を与える。自信喪失や不安、挑戦への躊躇など、人生に影を落とす可能性もある。
ナラティブアプローチ 優位な物語に気づき、別の角度から見て、新たな解釈を加えることで、物語に新たな光を当てる方法。 過去の経験を再解釈し、新たな物語を紡ぎ出すことで、未来への希望を取り戻し、人生を豊かで彩りあるものにする。
ナラティブアプローチの実践 過去のつらい経験を振り返り、新たな意味を見出す(例:あの時、私は精一杯頑張っていた。あの経験のおかげで、今の私がある。) 過去の経験への新たな解釈、未来への希望の獲得

対話を通じた支援

対話を通じた支援

人と人が心を通わせる対話こそが、支えを必要とする方々にとって大きな力となると考えています。これは、物語に焦点を当てる支援の方法で、専門家として一方的に助言するのではなく、支えられる方の語りや経験にじっくりと耳を傾けることが何よりも大切だと考えています。

この方法では、支える側と支えられる側が対等な関係にあることが重要です。支える側は、専門知識を持つ立場から指導するのではなく、寄り添い、共感し、共に物語を紡いでいく仲間のような存在となります。支えられる側は、自分の言葉で自分の経験や思いを語ることで、自分自身をより深く理解し、新たな発見をすることができます。

この対話そのものが、変化を生み出す力となるのです。例えば、過去のつらい経験にとらわれている方がいたとします。その方が自分の経験を語る中で、支える側は否定したり、解決策を提示したりするのではなく、その方の気持ちに寄り添い、共感します。そして、その経験の中で見落としていた強みや、乗り越えてきた力に気づきを与えられるように、一緒に物語を組み立てていくのです。

信頼関係を土台とした対話を通して、支えられる方は自分自身の可能性を改めて認識し、より良い人生を切り開くための力を身につけていきます。それはまるで、暗闇の中で道に迷っていた人が、対話という灯火によって、自分の進むべき道を見つけるようなものです。そして、その道を進むための勇気と力を得るのです。この支援の方法は、人生の様々な場面で応用できる、力強い支えとなるでしょう。

支援のポイント 説明
対話重視 一方的な助言ではなく、相手の語りと経験に耳を傾ける
対等な関係 支える側と支えられる側が対等な立場で、共に物語を紡ぐ
共感と寄り添い 否定や解決策提示ではなく、相手の気持ちに寄り添い共感する
自己発見の促進 自分の言葉で語ることで、自己理解を深め、新たな発見をする
変化を生み出す力 対話そのものが変化の力となり、過去の経験から強みや乗り越えた力に気付く
信頼関係 信頼関係を土台とした対話を通して、可能性を認識し、より良い人生を切り開く力を得る
広い応用性 人生の様々な場面で応用できる

様々な分野での活用

様々な分野での活用

語りを通して、人生をより良く紡いでいく方法、それが物語療法です。この手法は、困りごとを抱える人だけでなく、様々な分野で活用され、人々を支えています。

まず、介護や福祉の現場では、高齢者や障がいを持つ方の生活の質を高めるために役立っています。これまでの人生を振り返り、語ってもらうことで、その方の価値観や想いを理解し、より適切な支援を届けることができます。

教育の場では、子どもたちの成長を促す力となります。子どもたちは、物語を創作したり、共有したりすることで、自分の考えや気持ちを表現し、他者との関わり方を学びます。問題行動への対応においても、子どもの行動の背景にある物語を理解することで、より効果的な解決策を見つけることができます。

子育てにおいても、親子関係を深めるためのツールとなります。親は、子どもが語る物語に耳を傾けることで、子どもの世界を理解し、共感することができます。また、親自身が自分の経験を語ることで、子どもに人生の知恵を伝えることができます。

心理療法の分野では、心の傷を癒す助けとなります。辛い経験を語ることで、感情を整理し、新たな視点を持つことができます。過去の出来事に囚われず、未来に向けて歩み出す力を得ることができるのです。

職場の人間関係の改善にも、物語療法は有効です。同僚同士が互いの経験や考えを共有することで、理解を深め、協力し合うことができます。職場全体の活性化にも繋がります。

さらに、地域社会の活性化にも貢献します。地域の人々が集まり、それぞれの物語を語り合うことで、地域への愛着が深まり、共同体意識が高まります。

物語療法は、単なる問題解決の手法ではありません。人々の心に寄り添い、共に人生を歩むための哲学です。語りを通して、人々は繋がり、支え合い、より良い未来を創造していくのです。

分野 効果
介護・福祉 高齢者や障がいを持つ方の価値観や想いを理解し、適切な支援を提供。生活の質の向上。
教育 子どもたちの成長促進、自己表現力の向上、問題行動への効果的な対応。
子育て 親子関係の深化、子どもの世界への理解と共感、人生の知恵の伝達。
心理療法 心の傷の癒し、感情の整理、新たな視点の獲得。
職場の人間関係 相互理解の深化、協力関係の構築、職場活性化。
地域社会 地域への愛着向上、共同体意識の向上。