高齢者・障害者のアドボカシー：権利擁護と意思決定支援

高齢者・障害者のアドボカシー：権利擁護と意思決定支援

アドボカシーとは

『擁護』や『代弁』とも呼ばれるアドボカシーは、福祉の分野で用いられる大切な支援のやり方です。特に、高齢になった方や障がいのある方など、自分の気持ちをうまく伝えられない、あるいは自分の権利を主張することが難しい方々にとって、アドボカシーは大きな支えとなります。

アドボカシーの活動は多岐に渡ります。例えば、ご本人に代わって思いを伝えたり、脅かされている権利を守ったり、自分で物事を決められるよう支援したりといったことが挙げられます。

アドボカシーの中心にあるのは、その人が自分らしく生きられるよう助けることです。例えば、施設に入所している高齢の方が、毎日の食事のメニューを自分で選びたいと思っているのに、なかなか希望が叶えられないとします。このような時、アドボケーターはご本人の思いを汲み取り、施設の職員に伝えて、実現に向けて共に調整を図ります。あるいは、障がいのある方が地域で暮らしたいと願っているにも関わらず、必要な支援が受けられずに困っている場合、アドボケーターは関係機関と連携を取り、ご本人が地域で安心して生活できるよう必要な手続きや調整を行います。

アドボカシーは、単に困りごとを解決するだけでなく、その人が自分の人生を自分で決め、主体的に生きていけるように力を与えるものです。社会的に弱い立場にある人々が、周りの人に遠慮したり、諦めたりすることなく、自分らしく生き生きと暮らせるように寄り添い、共に歩む、それがアドボカシーの真髄です。誰もが尊重され、大切にされる社会を作るためには、アドボカシーについてもっとよく知り、広めていくことが欠かせません。

アドボカシーの種類

困っている人の力になる活動、すなわち、アドボカシーには、様々な種類があります。大きく分けて六つの種類をご紹介しましょう。まず一つ目は、一人一人の具体的な問題解決に寄り添う『個別支援』です。例えば、介護サービスを使う上で起きた困りごとや、近所の人とのもめ事など、具体的な問題を解決するために、関係する機関と話し合ったり、調整役を担ったりします。二つ目は、社会全体のしくみや政策をよくすることを目指す『集団支援』です。ある特定の集団が共通して抱える問題を解決するために、政策への提案や、広くみんなに知ってもらうための活動などを行います。三つ目は、同じような立場の者同士が支え合う『仲間同士の支援』です。同じ経験をした者同士が、自分の経験や知識を分かち合うことで、自信をつけ、よりよく生きることを目指します。四つ目は、自分自身の権利を守る『自己支援』です。自分の考えをはっきり伝え、必要な手助けを求める力を育てます。五つ目は、地域の一員として社会に役立つ活動をする『地域貢献支援』です。地域活動に参加したり、自発的に人のためになる活動をすることで、社会全体の幸せを高めることに貢献します。六つ目は、法律に根ざした支援を行う『法に基づく支援』です。弁護士などの専門家と協力して、法律の面から権利を守ります。このように、様々なアドボカシーがあることで、色々な困りごとに合わせて、きめ細やかな支援を行うことができるのです。

高齢者へのアドボカシーの重要性

高齢化が進む中で、お年寄りの支えとなる活動の大切さが増しています。お年寄りは、体や頭の働きが弱まること、周りの人とのつながりが少なくなることなど、さまざまな困難に直面しやすく、権利を侵害されたり、不当な扱いを受けたりする危険性も高まります。そこで、お年寄りの尊厳を守り、権利を守るための活動が欠かせません。このような活動を「権利擁護」と呼びます。

権利擁護は、お年寄りが安心して暮らせるようにするための大切な取り組みです。お年寄りの声に耳を傾け、その思いを尊重し、必要なサービスを受けられるよう手助けをすることで、お年寄りが安心して自分らしく生活できる社会を作ることができます。具体的には、お年寄りの代わりに必要な手続きをしたり、関係機関との連絡調整をしたり、お年寄りが抱える悩みや不安を丁寧に聞き、解決策を一緒に考えたりするなど、様々な形での支援があります。

権利擁護は、お年寄り本人だけでなく、その家族にとっても心強い支えとなります。介護をする家族は、肉体的にも精神的にも大きな負担を抱えています。権利擁護の活動を通して、家族の負担を軽減し、お年寄りと家族が共に安心して暮らせるよう支援していくことが重要です。

お年寄りが住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるように、地域全体で権利擁護の意識を高めていく必要があります。周りの人がお年寄りの状況に気を配り、困っている様子があれば声をかける、地域包括支援センターなどの相談窓口に繋げるなど、一人ひとりができることから始めることが大切です。高齢者が安心して暮らせる社会は、誰もが安心して暮らせる社会です。私たち皆で協力して、お年寄りを支える仕組みを作っていきましょう。

障害者へのアドボカシーの重要性

困りごとを抱える人にとって、自分の代わりに、あるいは一緒に、物事を進めてくれる人がいることは大きな力になります。それが、アドボカシーと呼ばれる支援活動です。特に、体に不自由がある人にとっては、日常生活を送る上で様々な壁にぶつかることが少なくありません。仕事を見つける、学校に通う、病院で診察を受ける、福祉のサービスを受ける、といった場面で、一人ではなかなか解決できない問題に直面することもあります。このような時、アドボカシーの担い手は、困っている人の思いや願いを丁寧に聞き取り、必要な情報を提供したり、関係機関との橋渡し役をしたりすることで、その人が自分らしく生きていくためのお手伝いをします。

例えば、就職活動をしている体に不自由がある人がいたとします。なかなか仕事が見つからず悩んでいる時、アドボカシーの担い手は、その人の持っている能力や希望をじっくりと聞き取り、適した仕事を紹介するだけでなく、面接の練習をしたり、職場環境の調整を企業に依頼したりするなど、就職活動全体をサポートします。また、学校に通う子どもが、授業についていくのが難しいと感じている場合、アドボカシーの担い手は、学校と連携して、学習支援や適切な授業環境の整備を働きかけます。病院での診察や福祉サービスの利用についても、アドボカシーの担い手は、必要な情報を提供し、手続きを支援することで、その人が安心してサービスを受けられるようにします。

近年、みんなが暮らしやすい社会を作るための法律も整備され、社会全体の意識も少しずつ変わってきています。しかし、真に誰もが自分らしく生きられる社会を作るためには、アドボカシーのような息の長い支援が欠かせません。困りごとを抱える人が、自分の思いを伝え、必要な支援を受けられるように、そして、社会全体が、多様な人々が共に生きることを当たり前のものとして受け入れるように、私たち一人ひとりができることを考えていくことが大切です。

家族の役割

高齢の方や障がいのある方の暮らしを支える上で、家族の役割はとても大切です。家族は一番身近な存在として、日々のちょっとした様子の変化にも気づきやすく、その方の気持ちを汲み取りやすいからです。たとえば、食事の量が減ってきた、歩く速度が遅くなった、表情が暗くなったといった小さな変化に、家族は気づきやすいでしょう。こうした変化は、健康状態の悪化や心の不調を示すサインかもしれません。家族がこれらの変化に気づき、適切な対応をすることで、大きな問題を防ぐことにつながります。

家族は、ご本人の意思を尊重し、必要な支援へとつなげる大切な橋渡し役となります。ご本人が望む暮らしを実現するためには、ご本人の意思を尊重することが何よりも大切です。しかし、高齢の方や障がいのある方の中には、自分の気持ちをうまく伝えられない方もいらっしゃいます。そのような場合、家族がご本人の気持ちを代弁し、周囲に伝えることで、ご本人の意思を尊重した支援を実現することができます。具体的には、ケアマネジャーや医師、福祉施設の職員などと相談し、ご本人に合ったサービスや支援内容を決めていく際に、ご本人の気持ちを伝える役割を担います。

もちろん、家族だけで全ての負担を背負う必要はありません。介護や介助は、肉体的にも精神的にも大きな負担がかかります。家族だけで抱え込まず、専門機関や地域社会の力を借りることが大切です。地域包括支援センターや居宅介護支援事業所などに相談することで、様々なサービスや支援制度の情報を得ることができます。また、介護サービスを利用することで、家族の負担を軽減し、ご本人にもより質の高いケアを提供することが可能になります。家族が無理なく支援を続けられるように、専門機関や地域社会と連携し、共に支え合う体制を作ることが重要です。

家族が介護や介助、福祉、地域社会の資源などに関する知識を深めることで、ご本人にとってより良い支援を実現できます。たとえば、介護保険制度や障害者総合支援法などの制度を理解することで、利用できるサービスの種類や申請方法などを把握することができます。また、地域にある相談窓口や支援団体を知っておくことで、必要な時に適切なサポートを受けることができます。家族が積極的に情報を集め、活用することで、より効果的な支援につながるでしょう。

まとめ

社会的に弱い立場にある方々、例えば高齢の方や障害のある方などが、自分らしく安心して暮らせるように支援するのがアドボカシーです。これは、その方々の権利を守り、声を代弁したり、必要な情報を提供したり、ご自身の意思で物事を決められるようサポートしたりすることを意味します。

アドボカシーには様々な種類があります。例えば、ある特定の方の権利を守るために直接支援する個別アドボカシーや、制度を変えて多くの方の暮らしを良くする制度提言型アドボカシー、そして地域全体で支え合う仕組みを作る地域アドボカシーなどがあります。それぞれの状況に合わせて、最も適切な方法で支援することが大切です。

高齢化が進む中で、介護が必要な方が増えています。また、障害のある方が抱える課題も複雑化しています。こうした状況の中で、アドボカシーの役割はますます重要になっています。アドボカシーは、単に困っている人を助けるだけでなく、その人が社会の一員として尊重され、自分らしく生きられるようにするためのものです。

アドボカシーをより効果的に行うには、多くの人にアドボカシーについて知ってもらうこと、そして様々な専門家が協力して、包括的な支援体制を築くことが必要です。例えば、医師、看護師、介護士、社会福祉士、ケアマネージャーなどがそれぞれの専門性を活かし、連携して支援することで、よりきめ細かいサービスを提供することができます。

誰もが安心して暮らせる社会を作るためには、私たち一人ひとりがアドボカシーの重要性を理解し、共に支え合う意識を持つことが大切です。周りの人に寄り添い、困っている人がいたら声をかけ、必要な支援につなげる。そうした小さな行動の積み重ねが、大きな力となり、より良い社会の実現につながっていくでしょう。