失見当識:認知症の中核症状を知る

失見当識:認知症の中核症状を知る

介護を学びたい

先生、「失見当識」ってよく聞くんですけど、何なのか、介護と介助の場面でどう違うのか教えてください。

介護の研究家

そうだね。「失見当識」は、簡単に言うと、自分が今どこにいるのか、今はいつなのか、目の前にいる人は誰なのかが分からなくなってしまう状態のことだよ。認知症の症状の一つだね。介護の場面では、例えば、自宅にいるのに「家に帰りたい」と言ったり、朝なのに「もう夜?」と聞いたりすることがあるよ。

介護を学びたい

なるほど。では、介護と介助で何か違いはあるんですか?

介護の研究家

そうだね、介護では「失見当識」への対応が重要になる。例えば、本人の気持ちに寄り添って、否定せずに安心感を与える声かけをしたり、落ち着けるように環境を整えたりする。一方、介助では、例えば、転倒しないように見守ったり、食事や排泄の介助をしたりする際に、状況を丁寧に説明することで、混乱を防ぎ、スムーズに介助ができるようになるね。

失見当識とは。

『失見当識』という言葉について説明します。これは『介護』や『介助』が必要な方の状況を理解する上で大切な言葉です。失見当識は、認知症の中核症状の一つです。自分が今どこにいるのか、今はいつなのか、目の前にいる人が誰なのかが分からなくなる状態のことです。言い換えると、自分が置かれている状況や時間、周りの人が分からなくなってしまうことです。これは見当識障害とも言われています。

失見当識とは

失見当識とは

失見当識とは、認知症の中核症状の一つです。これは、時間、場所、人物など、自分が置かれている状況を正しく認識できなくなる状態を指します。

例えば、「今日は何月何日か」「ここはどこなのか」「目の前にいる人は誰なのか」といった、ごく当たり前の情報が分からなくなります。症状が進むと、「自分は一体誰なのか」という、自身の存在さえも認識できなくなることもあります。この状態は、見当識障害とも呼ばれ、認知症の進行と共に悪化する傾向があります。

初期段階では、日付や曜日が曖昧になる程度の軽い症状が見られます。例えば、今日が何曜日か分からなかったり、日付を一日二日間違えたりするといったことです。しかし、病状が進行すると、自宅に居ながらにして「ここは見知らぬ場所だ」と感じて強い不安や混乱に陥ったり、長年連れ添った家族の顔を見ても誰だか分からず、他人と勘違いして拒絶するといった行動が見られるようになります。

このような症状は、日常生活に大きな支障をきたします。一人で外出することが困難になったり、食事や着替えといった基本的な動作でさえ一人では行えなくなることもあります。また、介護する家族にとっても、常に見守っていなければならない、何度も同じ説明を繰り返さなければならないなど、肉体的にも精神的にも大きな負担となります。

したがって、失見当識について正しく理解し、状況に応じた適切な対応策を講じることが、本人にとっても家族にとっても非常に重要になります。焦ったり叱ったりするのではなく、穏やかに接し、安心できる環境を整えることが大切です。

症状 段階 影響 対応
時間、場所、人物の認識困難 初期段階:日付や曜日が曖昧
進行段階:自宅を認識できない、家族を認識できない
日常生活に支障:外出困難、食事や着替え困難
介護負担:常に見守り、同じ説明の繰り返し
症状の理解、適切な対応策
穏やかな対応、安心できる環境

失見当識の原因

失見当識の原因

失見当識とは、時間、場所、人などがわからなくなる状態を指します。主な原因は、脳の働きが弱まることです。特に、記憶や考え事、判断をするといった大切な役割を担う脳の部分が傷つくと、情報がうまく処理できず、自分がどこにいるのか、今はいつなのか、誰と話しているのかなどがわからなくなってしまうのです。

認知症の中でも、よく耳にするアルツハイマー型認知症は、失見当識がよく見られる病気です。脳の神経細胞が少しずつ壊れていくことで、記憶や判断力が低下し、時間や場所の見当識がつかなくなります。また、脳の血管が詰まったり破れたりする脳血管障害や、レビー小体という異常なタンパク質が脳に溜まるレビー小体型認知症、前頭葉や側頭葉が萎縮する前頭側頭型認知症などでも、失見当識が起こることがあります。

これらの病気以外にも、年齢を重ねることで脳の働きが自然と衰えてくることや、高い熱、体の水分が不足する脱水症状、血糖値が下がる低血糖、薬による副作用、睡眠が足りていない状態、強い精神的な負担なども、一時的に失見当識を引き起こすことがあります。例えば、高熱が出ている時は意識がもうろうとなり、自分がどこにいるのかわからなくなることがあります。また、強いストレスを感じている時にも、一時的に混乱して見当識が失われることがあります。

もし、自分や周りの人が失見当識のような症状を見せた場合は、早めに病院で診てもらうことが大切です。医師による診察や検査を受けることで、何が原因で失見当識が起きているのかをきちんと調べることができます。原因がわかれば、それに合った治療やケアを受けることができ、症状の改善や進行の抑制につながります。自己判断で対処せずに、専門家の助言を仰ぐようにしましょう。

症状 原因 関連疾患 その他要因 対応
時間、場所、人などがわからなくなる 脳の働きが弱まる(記憶、思考、判断をつかさどる脳の部分の損傷) アルツハイマー型認知症、脳血管障害、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症 加齢、高熱、脱水症状、低血糖、薬の副作用、睡眠不足、強い精神的負担 早めに病院で診察と検査を受ける

失見当識への対応

失見当識への対応

失見当識を抱える人は、時間、場所、人物など、現状を把握する能力が低下し、混乱や不安を感じています。そのため、周囲の者は、本人の混乱を最小限に抑え、安心感を与える対応を心がける必要があります。

まず、落ち着いた態度で優しく接することが大切です。混乱していることを責めたり、否定したりせず、共感する姿勢を示しましょう。「今の状況が分からなくて不安なんですね」といった言葉をかけることで、本人の気持ちを理解していることを伝えられます。

そして、分かりやすい言葉でゆっくりと、現在の状況を説明します。「今は令和6年4月1日、午前10時です。ここは〇〇さんのご自宅のリビングで、私は〇〇です」のように、日付、時間、場所、話し相手の名前など、具体的な情報を伝えましょう。状況を把握する手がかりを与えることで、本人の不安を軽減できます。

見慣れた物や写真、愛着のある品などを身近に置くことも効果的です。落ち着ける空間を作ることで、安心感を与え、混乱を和らげることができます。また、整理整頓された環境を維持することも重要です。物が散らかっていると、さらに混乱を招く可能性があります。

規則正しい生活リズムを維持することも、失見当識の症状の軽減に繋がります。日中は適度に体を動かし、日光を浴びることで、体内時計が調整され、睡眠の質の向上に繋がります。夜は十分な睡眠時間を確保し、心身のリズムを整えましょう。

失見当識は一時的なものではなく、症状が再発する可能性があることを理解しておくことが重要です。周囲の家族や介護者は、失見当識に関する正しい知識を身につけ、適切な対応を学ぶことで、本人の生活の質の向上を支援できます。また、地域包括支援センターなどの専門機関に相談し、助言や支援を受けることも有効です。継続的な支援体制を構築することで、本人だけでなく、家族の負担軽減にも繋がります。

対応 具体的な行動 目的
落ち着いた態度で優しく接する 共感する姿勢を示し、「今の状況が分からなくて不安なんですね」といった言葉をかける 混乱を最小限に抑え、安心感を与える
分かりやすい言葉でゆっくりと現在の状況を説明する 「今は令和6年4月1日、午前10時です。ここは〇〇さんのご自宅のリビングで、私は〇〇です」のように、日付、時間、場所、話し相手の名前など、具体的な情報を伝える 状況を把握する手がかりを与え、不安を軽減する
見慣れた物や写真、愛着のある品などを身近に置く 落ち着ける空間を作る 安心感を与え、混乱を和らげる
整理整頓された環境を維持する 物を散らかさない 混乱を招くことを防ぐ
規則正しい生活リズムを維持する 日中は適度に体を動かし、日光を浴び、夜は十分な睡眠時間を確保する 体内時計を調整し、睡眠の質の向上、心身のリズムを整える
失見当識の症状が再発する可能性があることを理解し、専門機関に相談する 地域包括支援センターなどに相談し、助言や支援を受ける 適切な対応を学び、本人の生活の質の向上を支援し、家族の負担軽減を図る

周囲の理解と支援

周囲の理解と支援

時や場所、人物がわからなくなる失見当識を抱える人は、周囲の理解と支えなしでは穏やかな暮らしを送ることは困難です。 家族や友人、地域社会全体の温かい理解と適切な支援が、本人の安心感に繋がり、生活の質を向上させる鍵となります。

まず、失見当識は認知症の症状の一つであることを深く理解することが大切です。 認知症であるがゆえに、時や場所、周りの人がわからなくなってしまうのです。このことを念頭に置き、本人の言動に寛容な態度で接することが求められます。混乱している時、わからないと訴えている時に、頭ごなしに否定したり、叱責したりするような対応は決してとってはいけません。そのような対応は、本人をさらに混乱させ、不安や恐怖を増幅させる可能性があります。混乱している本人には、優しく落ち着いた声で話しかけ、安心感を与えるように努めましょう。 例えば、「今は何年何月何日だよ」「ここは〇〇だよ」「私は〇〇だよ」と、穏やかに、繰り返し伝えることが効果的です。

家族だけで抱え込まず、地域社会が提供する様々な支援を活用することも重要です。 地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを支えるための様々な相談窓口として機能しており、専門家による助言や情報提供を受けることができます。また、認知症カフェは、認知症の人やその家族が気軽に集まり、交流できる場です。同じ悩みを持つ人たちと語り合うことで気持ちが楽になり、有益な情報交換もできます。これらの公的なサービスを積極的に利用することで、本人だけでなく、介護する家族の精神的、身体的な負担を軽減することに繋がります。

失見当識は、認知症の進行に伴い症状が悪化する可能性も懸念されます。しかしながら、周囲の適切な対応と継続的な支援によって、症状の悪化を穏やかにし、本人が穏やかで安定した日々を送れるよう支えることが可能です。 焦らず、諦めず、温かい心で寄り添うことが大切です。

失見当識への理解と対応 具体的な行動 支援の活用
失見当識は認知症の症状の一つであることを理解する
  • 寛容な態度で接する
  • 頭ごなしに否定したり、叱責したりしない
  • 優しく落ち着いた声で話しかけ、安心感を与える
  • 時間、場所、人物を穏やかに繰り返し伝える
家族だけで抱え込まず、地域社会の支援を活用する
  • 地域包括支援センター
  • 認知症カフェ
適切な対応と継続的な支援で症状の悪化を穏やかにする 焦らず、諦めず、温かい心で寄り添う

医療機関の受診

医療機関の受診

時間や場所、人物がわからなくなるといった状態は、見当識障害と呼ばれ、医療機関を受診することが大切です。自分だけで解決しようとせず、専門家の診察を受けることで、何が原因なのかを正しく知り、適切な治療やお手伝いを受けることに繋がります。

医療機関では、お話を聞いたり、もの忘れの検査や、体の状態を画像で調べる検査などを通して、見当識障害の原因を詳しく調べます。原因がわかれば、それに合った治療やお手伝いが始まります。例えば、もの忘れが主な病気と診断された場合は、薬による治療や、思い出す練習などを行います。もし、他の病気が原因だった場合は、その病気に対する治療が行われます。

早く医療機関を受診することで、症状がひどくなるのを防いだり、深刻な状態になるのを防ぐことが期待できます。見当識障害は、ご本人だけでなく、ご家族にとっても大変な症状です。ですから、一人で悩まず、医療機関や地域包括支援センターなどの専門の窓口に相談し、適切なお手伝いを受けることが大切です。早く見つけて、早く対応することが、より良い生活を送るための大切なポイントです。

医療機関を受診する際は、ご家族が付き添うなど、周りの方の協力が大切です。受診時には、いつから症状が現れたか、どのような状況で症状が現れやすいかなど、具体的な情報を伝えるようにしましょう。また、普段服用している薬があれば、医師に伝えるようにしてください。医師との連携を密にすることで、より適切な治療やケアを受けることができます。日常生活での注意点や、ご家族がどのように支えていくかなど、具体的なアドバイスを受けることもできますので、積極的に相談するようにしましょう。

見当識障害とは 時間や場所、人物がわからなくなる状態
対処法 医療機関を受診し、専門家の診察を受ける
医療機関での対応
  • 問診
  • もの忘れの検査
  • 画像検査など
治療・お手伝い
  • 原因に応じた治療(例:薬物療法、認知トレーニングなど)
  • 他の病気の治療
早期受診のメリット
  • 症状の悪化防止
  • 深刻な状態への移行防止
相談窓口
  • 医療機関
  • 地域包括支援センター
受診時のポイント
  • 家族の付き添い
  • 症状の具体情報の伝達
  • 服用薬の情報伝達
  • 医師との連携
  • 日常生活の注意点、家族の支援方法などについて相談